生産関数と利潤の性質#

前章では,費用関数を求めた.求めた費用関数を用いれば単一財の生産者理論の章のように,それを用いてベストな生産量 \(q\) を求め,それを \(K^*(q),L^*(q)\)に代入すればベストな資本量と労働量を求めることができる.だが,そのやり方はまどろっこしく見える.もちろん,計算の都合上,その方が簡単になることはある.しかし,より直接的に,利潤を最大化する生産量を求めるやり方もある.これをいかに説明する.

利潤最大化と一階条件#

費用関数を使わずに,利潤を直接書くとどうなるか見てみよう.

\[p\cdot f(K,L)-r\cdot K-w\cdot L\]

生産関数の意味を復習すると,\(K\)だけ資本を投入し,\(L\)だけ労働を投入すると \(f(K,L)\)だけの数の商品が作れるということである. したがって,\(K,L\)だけの資本・労働を投入すれば,作れる商品の数は\(f(K,L)\)で,それを価格\(p\)で販売するので,売上金額は \(p\cdot f(K,L)\), そのときの費用は \(r\cdot K + w\cdot L\)である.したがって,売上金額から費用を引いた上記の式が利潤となるのである.

これを最大にするような \(K,L\)はどのような条件を満たすだろうか?答えは,単一財の生産者の章のときとほぼ同じである.それはそれぞれの変数で微分して,\(0\)となることが条件である.それを式で書くと以下の通りである.

\[\begin{split}p\cdot \frac{\partial f(K,L)}{\partial K} - r=0\\ p\cdot \frac{\partial f(K,L)}{\partial L} - w=0\end{split}\]

少し式を変形すれば,以下の通りである.これらは一階条件と呼ばれる.

\[\begin{split} \frac{\partial f(K,L)}{\partial K} &= \frac{r}{p}\\ \frac{\partial f(K,L)}{\partial L} &= \frac{w}{p}\end{split}\]

\(\frac{r}{p}\)実質利子率\(\frac{w}{p}\)実質賃金率と呼ばれる.実質という意味は,価格\(p\)で割っていることによる. 例えば,この世に財が一種類しかないとしよう.このときお金の使い道はその財にしかない.つまりその財がどれだけたくさん買えるかが実質的なお金の価値である. 賃金が\(w\)であれば,その財は\(w/p\)個だけ買える.実質的な賃金の価値は\(w/p\)というわけである.

一階条件が意味しているところは,労働と資本の限界生産物がそれぞれ実質賃金率と実質利子率と等しいということである. これがわかったとてなんだと思われるかもしれないが,後で説明する.しばしの我慢である.

スケールメリット#

生産関数の特徴を見る際に,「投入量を\(n\)倍すれば生産量は何倍になるか?」を考えることがある.具体的には次のように分類する.

  • \( f(nK,nL)>n f(K,L)\)となるとき,規模に関して収穫逓増という

  • \( f(nK,nL)=n f(K,L)\)となるとき,規模に関して収穫一定という

  • \( f(nK,nL)<n f(K,L)\)となるとき,規模に関して収穫逓減という

収穫逓増であれば,投入量を \(n\)倍すれば生産量は\(n\)倍以上になる.このときはスケールメリットが働くとも言える.要するにたくさん作れば作るほど,一つあたりの費用が安くなるということである.例えば,一つ作るのに\(w L+rK\)だけの費用がかかっていたとすれば,\(K,L\)の投入量を三倍にすれば費用も三倍だが,作れる量は3つより多い.もし作れる量が4になっていれば一つあたりの費用は \(\frac{3}{4}(w L+rK)\)であり,一つだけ作るときと比べて単価で75%の費用で作れることになる.言い換えれば作るほど一つあたりの費用が下がっていく状態である1

収穫逓減はその状況の逆である.作れば作るほど費用は増加していく,つまりスケール・デメリットがある状態である.収穫一定であれば一つあたりの費用は変化しないということである.

さて,収穫一定であるということは別名では,生産関数が1次同次であるともいう2.

1次同次関数にはオイラーの定理として知られる次の等式が成り立つ3. 証明はここでは行わないが,一般的な経済数学の本には載っているのでそちらをご覧いただきたい4

\[f(K,L)=\frac{\partial f(K,L)}{\partial K}\cdot K + \frac{\partial f(K,L)}{\partial L}\cdot L\]

完全分配定理#

さて,オイラーの定理と一階条件を合わせれば次の結果を導くことができる.すなわち,最適な生産量においては

\[f(K,L)=\frac{r}{p}\cdot K + \frac{w}{p}\cdot L\]

となる.オイラーの定理の限界生産物のところに実質賃金率や実質利子率を代入するだけである.この結果は完全分配定理と呼ばれている.なぜならこれを利潤の式に代入すると,

\[\begin{split}\text{利潤}&=p\cdot f(K,L)-r\cdot K-w\cdot L\\ &=p\left(\frac{r}{p}\cdot K + \frac{w}{p}\cdot L\right) -r\cdot K-w\cdot L\\ &= r\cdot K+w\cdot L-r\cdot K-w\cdot L=0\end{split}\]

となる.つまり,利潤は労働者と資本に完全に分配されて企業の手元には一銭も残らないのである.


1

この背後には\(K\)やら\(L\)やらは常に一定の金額で投入できる(つまり賃金や利子率は変わらない,と企業が思い込んでいる)という前提がある.これが現実的かどうかは議論がいるところである.

2

一般に,関数\(f\)\(m\)次同次であるとは\(f(nK,nL)=n^mf(K,L)\)であることを言う.\(m\)\(n\)の次数である.

3

逆にこの等式が成り立っている関数は1次同次であることも示すことができる.

4

例えば,多鹿「読んで理解する経済数学」p.166