複数企業の競争#

価格の影響を気にするのは独占企業だけではない. 同一の製品を生産する企業が二社あるいは数社等非常に少ないとき、それを 寡占市場 と呼ぶ.特に二社の場合を複占市場と呼ぶ.寡占市場においてでも各々の企業が価格に影響を与えられる. 複数社による寡占市場で生産量調整による競争を クールノー競争 と呼ぶ.

数社の企業が同一の財を生産するとき、独占市場のときよりも一社の生産量の影響が小さい. 例えば個々の農家がコメを生産することを考えよう. 全国のコメの生産量は782万トン(平成29年度、農林水産省作物統計)である.一方農家一戸あたりの生産量は6トンほど.農家一人が個人でできる範囲でいくら生産量を調整しても生産量は殆ど変わらずそれゆえ価格はほとんど変わらないのである.

しかしながら、コメだとたくさん農家がいるが、清涼飲料水、鉄鋼や石油精製、自動車などは数社しかいないので各社にもう少し価格に影響力がある.寡占市場では独占のときより生産による価格低下の影響が少なく、より多く生産するようになる.しかし完全競争よりは気にするので完全競争と比べると少ない.

この議論を数式を使って確かめよう.企業の数は二社であるとしよう.それぞれを「コ社」と「ペ社」とする. それぞれの生産量を \(q_{\text{コ}}\)\(q_{\text{ペ}}\) とする.この二社は全く同一の製品を生産するので、市場で供給される製品の量はコ社とペ社の生産量の合計 \(q=q_{\text{コ}}+q_{\text{ペ}}\) である. したがって、需要関数を \(D(p)=d-p\) とすると均衡価格は需要と市場供給量が一致するように決まる.すなわち、以下のように決定される.

\[D(p) = \underbrace{q_{\text{コ}}+q_{\text{ペ}}}_{\text{市場供給量}} \iff p = d-(q_{\text{コ}}+q_{\text{ペ}} )\]

これを逆需要関数\(P(q)\)として考える1

コ社の利潤を考えよう.これは以下の通りである.

\[P(q)q_{\text{コ}}-C(q_{\text{コ}})=(d-(q_{\text{コ}}+q_{\text{ペ}} ))\times q_{\text{コ}} - c\times q_{\text{コ}}\]

注意されたいのは価格は合計生産量\(q=q_{\text{コ}}+q_{\text{ペ}}\)で決まる一方、売上金額はその価格にコ社生産量を掛けたものということである.コ社の利潤を考えるのでコ社の生産量を基準に考えないといけないのである.

いま、コ社はペ社の生産量を与えられたものとして、自社の利潤を最大化しようとしている.利潤最大化の条件は利潤を \(q_{\text{コ}}\) で微分することにより以下のように計算できる.

(1)#\[P(q)+P'(q)q_{\text{コ}}-C'(q_{\text{コ}})=d-c-2q_{\text{コ}}-q_{\text{ペ}} =0\]

これを解けばコ社の生産すべき量は

\[q_{\text{コ}}=\frac{d-c-q_{\text{ペ}}}{2}\]

であるということになる. このように、他社の生産量を前提として、自社の利潤を最大化するように決めた生産量をその企業の最適応答と呼ぶ.

ペ社の利潤最大化の条件も同様に以下のように求めることができる.

(2)#\[d-c-2q_{\text{ペ}}-q_{\text{コ}} =0\]

市場均衡ではこの二社ともが利潤最大化をしていなければならない.そのための条件は方程式(1)、および(2)の両方を生産量\(q_{\text{コ}}\)\(q_{\text{ペ}}\)が満たしていなければならないということである. したがって、(1)、および(2)を連立させて解くと

\[\begin{split}%d-(2+c)d+(2+c)^2y_{\text{コ}}-y_{\text{コ}}=0\\ q_{\text{コ}}=q_{\text{ペ}}= \frac{d-c}{3}\end{split}\]

という結果を得る. このとき、各企業の生産量が相手の生産量の最適応答になっている.この状態をクールノー均衡(または寡占均衡、二社の場合は複占均衡、クールノー・ナッシュ均衡とも)と呼ぶ.

Table 4 独占・寡占・完全競争の比較#

生産量

価格

完全競争均衡

\(d-c\)

\(c\)

独占均衡

\(\dfrac{d-c}{2}\)

\( \dfrac{d+c}{2}\)

クールノー均衡

\(\dfrac{2(d-c)}{3}\)

\( \dfrac{d+2c}{3}\)

さて、それぞれの均衡での生産量を比較してみよう. 上記の例ではクールノー均衡における総生産量は \(q_{\text{コ}}+q_{\text{ペ}}= \frac{2(d-c)}{3}\)、価格は \( \frac{d+2c}{3}\)となる.Table 4において生産量を比較してみる. \(d>c\) であることに注意する. 表を見ればわかるようにクールノー均衡では完全競争均衡と比べると生産量が少なく、価格も高いが 独占均衡のときよりは生産量が増え、価格が下がっている.

寡占競争において企業の数が増えれば二社の場合と同様に均衡を計算できる.このとき企業数の増加によって価格は低下する.しかしそれは競争均衡における価格よりは高い.ただし企業の数が増えれば増えるほどクールノー均衡価格は競争均衡価格に近づく.何故ならば企業の数が増えれば増えるほど一社あたりの価格への影響力が小さくなっていき、企業の数が無限になれば企業一社の価格への影響力は皆無である. これは価格受容者の仮定が想定するところである. つまり完全競争均衡とは企業が無限にたくさんある世界で正当化される.


1

もちろん需要関数が変われば逆需要関数も変化する.需要関数が\(D(p)=d-3p\)ならば逆需要関数は\(p=\left(d-(q_{\text{コ}}+q_{\text{ペ}})\right)/3\)である.