消費者問題の応用#

前節までは二つの財をどれだけ組み合わせて購入するかを決めようとする消費者を考えた.この章ではこの「財」にはいろいろな捉え方があることを示す.

貯蓄(異時点間の消費決定)#

ふたつの財として,今日の消費と明日の消費を考える.具体的には二日間しか生きない人を考える.三日以上でも生きる日数が決まっていれば話は全く同じなので考えやすいように二日間にしている.

今日の消費金額を\(C_1\),明日の消費金額を\(C_2\)とする.この消費の組み合わせから得られる効用を \(u(C_1,C_2)\) とする.効用の方は大して違わないが,予算制約の方に少し工夫がいる.まず,今日もらえる所得を \(I_1\),明日もらえる所得を \(I_2\) とする.1

この消費者は貯蓄も借金も可能だとする.この貯蓄とは,今日消費に使わなかったお金のことである.つまり,\(I_1-C_1\) が貯蓄である.貯蓄に利子がつくものとすると,貯蓄は明日には\((1+r)\)倍になる.\(r\)は利子率である.つまり,貯蓄した丸々の金額 \(I_1-C_1\) とそれにつく利子の金額, \(r\times (I_1-C_1)\) を足したものである.銀行にお金を預けるとは銀行にお金を貸しているとも同じなので,貸した分の代金が利子である. すると,明日使えるお金の総額は \((1+r)\times (I_1-C_1) + I_2 \) となる.明日までしか生きないのでお金を残しても仕方ないことから,明日の消費は \(C_2= (1+r)\times (I_1-C_1) + I_2 \)である. これを整理すると以下の式が,\(C_1, C_2\) が満たさなければいけない式となる.

\[C_2+(1+r) C_1 = I_2 +(1+r) I_1\]

これが予算制約と考えられる.

さっきは貯蓄の話しかしていなかったが,借金の場合も同じである.借金とは今日の所得以上に消費した金額のこと,つまり\(C_1-I_1\)である.これに利子をつけた金額2\((1+r)(C_1-I_1)\) を返さないといけないので,明日消費できる金額は \(I_2- (1+r)(C_1-I_1)\) であるので,明日の消費は\(C_2 = I_2- (1+r)(C_1-I_1)\)となる.これを整理すると

\[C_2+(1+r) C_1 = I_2 +(1+r) I_1\]

となるので全く同じ式である.これは\((1+r)(C_1-I_1)=-(1+r)(I_1-C)\)となり,これはマイナスの貯蓄と考えても良い.

結論としては貯蓄でも借金でも以下の式を予算制約と考えて効用最大化問題を考えれば十分である.

\[C_2+(1+r) C_1 = I_2 +(1+r) I_1\]

今日の消費の価格を \(1+r\),明日の消費の価格を\(1\)と捉えても良いが,それには注意が必要である.なぜなら\(r\)が増えれば今日の消費の価格だけではなく,全体の所得 \(I_2 +(1+r) I_1\)も増えるからである.したがって,価格効果の分析として\(r\)の変化を考えるときには注意が必要である.スルツキー分解で出てくる所得効果だけではなく,ダイレクトな所得の効果が追加で入ってくるからである.

労働供給#

二つの財として,物質的な財と休暇を考える.この物質的な財は働かなければ手に入れられないとする.この働くことを明示的にモデルに入れる.まず,物質的な財の消費金額を\(C\)とする.つぎに休暇の時間を\(\ell\)とする. このとき,全体での時間を\(1\)とすると,\(1-\ell\)が働く時間とする.3 働いた時間に比例して給与\(w\)がもらえるとすると,得られるお金は\((1-\ell)w\)である.働かずとももらえる所得(不労所得)があればそれを\(I\)と書くとしよう.そうすると消費金額の大きさは以下の通りである.

\[C = w(1-\ell) + I\]

式変形をすれば

\[C+w\ell = w+I\]

となる.\(w\)は休暇の価格とも考えても良いが,所得にも影響するところは注意である.

物々交換#

貯蓄や労働供給では価格に相当するものが所得にも入ってくる.次に紹介するものではそれがより明確である.いま,財1と財2を\(e_1\)\(e_2\)だけ持っているとしよう.これを物々交換することを考える.これを表現するには,この最初に持っている財を全て売って所得を得て,その所得を元に財を買い直すと言うものである. 売ることによって得られる所得は \(p_1 e_1+p_2 e_2\)であり,購入する消費プランを\((x_1,x_2)\)とすれば必要金額は\(p_1 x_1+p_2 x_2\)であるので予算制約は

\[p_1 x_1+p_2 x_2 = p_1 e_1+p_2 e_2\]

となる.


1

物価の変化などは全く無視する.

2

貯蓄と借金で利子率が同じことが気になるなら,違う利子率が適用されるケースも考えてみれば良い.ただしこの場合には予算制約線はまっすぐな直線にならない.どうなるか考えてみよう.

3

休暇を働いている以外の時間としている.他にも子育ての時間や介護の時間をモデルに入れる研究などもある.やることは大体同じである.