予算制約#
消費者は消費空間にある消費プランをなんでも選べるわけではない. 消費者が選択できる消費プランの集合は予算制約によって制限されている.
日常生活における明らかな事実として、消費者が購入するものには価格がついていて、タダでは買えない. さらに消費者が使えるお金には限りがある.その人の所得を超えてはものを購入することができないのである.
さらに議論を単純化するために次の仮定を置こう. それぞれの財には定価があり、どの消費者も所得に収まる範囲内であればその価格でいくらでも購入することができる.これは価格受容者の仮定と呼ばれる.消費者自身は『「直接価格をコントロールできる」と思っていない』ということである. さらに、消費者はお金を余らせても意味がないとする1.
ふたたび2財モデルで考えよう. ここで二種類の財を \(x\) と \(y\) と表現する. それぞれの購入量を\(q_x\), \(q_y\) と書くとする.(quantityの\(q\)である.それぞれ財\(x\), \(y\)の量であるので添字\(x\),\(y\)をつける.) 価格についてもそれぞれ \(p_x\), \(p_y\) と書く. さらに所得を \(I\) で書こう. すると予算制約は次の数式で書ける.
図で書くとFig. 21の通りである.上の予算式を\(q_{y}=\cdots\)の形に直せば\(q_{x}\)の一次関数の形で書ける.これは傾き\(-p_{x}/p_{y}\)の直線になる.
式変形は以下の通り
元の式: \(I=p_x \times q_x+p_y\times q_y\)
左辺と右辺を入れ替える: \(p_x \times q_x+p_y\times q_y=I\)
両辺から\(p_x \times q_x\)を引く: \(p_y\times q_y=I-p_x \times q_x\)
両辺を\(p_y\)で割る: \(q_y=\frac{I}{p_y}-\frac{p_x}{p_y} \times q_x\)
\(q_x\)を\(x\),\(q_y\)を\(y\)とおけばこれは\(y=-\frac{p_x}{p_y}x+\frac{I}{p_y}\), つまり傾き\(-\frac{p_x}{p_y}\), 縦軸の切片\(\frac{I}{p_y}\)となる直線の方程式になる.
図中の赤線を予算制約線と呼ぶ.
Fig. 21 予算制約#
予算制約の変化#
予算制約線は\(p_x\)や\(I\)が変化したときに予算制約線がどのように変化するのかを見てみよう.例えば以下の例は財\(x\)の価格が\(p_x\)から\(p_x'\)に増加したときの予算制約線の変化である.
Fig. 22 予算制約の変化(財\(x\)価格の増加)#
これはどのように考えればいいだろうか.まず,縦軸切片である\(I/p_y\)は変化しない.そもそもここは\(x\)の消費量が0,つまり予算を全て\(y\)に使ったときにどれだけ消費できるかと言う量を指している.したがって,\(x\)の価格が変化してもこの量は変わらない.
一方で横軸の切片\(I/p_x\)は\(x\)の価格が増加すると減少する.\(I/p_x\)はすべての予算を\(x\)に使うときの\(x\)の消費量なので,\(x\)価格が増加すればその量は減ってしまう.
予算制約線は直線なので,変化しなかった\(I/p_y\)と変化した後の\(I/p_x'\)を結べば変化後の予算制約線を書くことができる.
次に\(I\)が変化したときの影響を見てみよう.今,所得が\(I\)から\(I'\)に減少したとする. このとき,予算制約線は以下の図の通りに変化する.
Fig. 23 予算制約の変化(所得の減少)#
価格が変化しないので,傾き(\(-p_x/p_y\))は変化せず,また,所得が減るので買える量が減少し,予算制約は左下に平行移動する.
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貯金や借金ができないという想定に見えるが、貯金や借金を含むケースも解釈によってこのモデルで表現できる. 例えば,\(q_1\)を今日の消費,\(q_2\)を明日の消費と考え,\(m_1\)を今日の全財産(そして\(m_2\)を明日の給与)とすれば,今日消費しなかった分の\(m_1-p_1q_1\)は貯蓄(マイナスなら借金)と考えられる.この場合の予算は\(I=m_1+m_2\)である(いまは利子のことを考えていない).