無差別曲線#

あらゆる消費プランを考えるとき、どれが最適なものかを導くために有用な方法として、無差別な場合を考えるというものがある.

二つの消費プラン\(w\)\(w'\)が無差別であるとはその二つの消費プランがもたらす効用水準が同じであることをいう.つまり,\(u(w)=u(w')\)と言う意味である. 例として次の図を見てみよう.Fig. 24では消費プランA、B、Cが全て無差別である.つまり同じ効用水準を持つ.

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Fig. 24 無差別曲線#

無差別な点同士を結んだ曲線を無差別曲線という. 本資料では無差別曲線が次の性質を持つことを仮定する.

  1. 「無差別曲線を描くことができる.」

    • 無差別曲線が描けないケースはかなりのレアケースである.例えば消費者が消費プラン同士を比較できないという場合にはそういう事が起きる可能性がある.また、あらゆる消費プランが無差別だという場合には無差別曲線が線にならず無差別平面になる可能性はある.ただしこの講義ノートで考える「普通」の効用関数ではそういったことは起きない.

  2. 「どの無差別曲線が高い効用水準を示すかがわかる.」

    • 通常、財が多ければ多いほど望ましいということを仮定する.したがって,下の図のように, 右上にある方の無差別曲線(例えば\(a\)より\(b\)の無差別曲線が)がより高い効用の値を示すことになる.

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  3. 「異なる無差別曲線は交わらない.」

    • もし異なる無差別曲線同士が交わったのなら矛盾が発生する.異なる無差別曲線では効用水準が異なる.しかし交差する点の消費プランでは異なる二つの効用水準があることになってしまうのである.これを以下の図を用いて考えてみよう.

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    • もし二つの無差別曲線, \(a\), \(b\)が交わったとすると,その交点\(w''\)がある.\(a\)上の点\(w\)\(w''\)は無差別であることから\(u(w)=u(w'')\)\(b\)上の点\(w\)\(w'\)は無差別であることから\(u(w')=u(w'')\)と言えるので,\(u(w)=u(w')\)が言えることになる.しかし,\(w\)\(w'\)は同じ無差別曲線上にないはずなので,\(u(w)\neq u(w')\)となり矛盾である.したがって、無差別曲線同士は交わらない.

  4. 「無差別曲線は原点に対して凸になる.」

    • これはより中間の消費をしたほうが望ましい、ということを意味している.財\(x\)ばかり、や財\(y\)ばかりというような消費よりも財\(x\)\(y\)を半分づつ、という方が望ましいという仮定である.図を使えば以下の通りである.

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    • \(w\), \(w'\)が同じ無差別曲線上にあったとすれば,その二つを結んだ線分上の点\(w''\)\(w\)\(w'\)よりも効用が高い.

無差別曲線の傾きにも意味がある.これは一方の財を増やした時に, 効用を一定に保つにはどれだけ他方の財を減らさなければいけないかということを表している.この度合いを限界代替率と呼ぶ.これを以下で説明する.

一般に曲線の傾きはどこで測るかによって異なる.曲線の傾きは数学的には偏微分を用いて定義する.

\(u(q_x,q_y)\)と書けるとき、\(\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_x}\)\(x\)の限界効用と呼ぶ (\(MU_x\)と書くことが多い).これは関数\(u\)\(q_x\)で微分したものである これは他の財の消費量が変わらないとき, 財\(x\)の消費量だけをほんの少し増やしたとき, 効用がどれだけ増えるかを示している. 同様に\(\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_y}\)\(y\)の限界効用と呼ぶ (\(MU_y\)と書くことが多い). 基本的には効用の値そのものと同様に限界効用そのものの値には意味がない1. 他の財の限界効用と比べることで初めて意味がある.

\(x\)の財\(y\)に対する限界代替率とは言葉の原義的には「財\(x\)をほんの少し(1だけ)増やした時に 効用を一定に保つためには財\(y\)をどれだけ減らさなければいけないかという交換比率」である. 減らすべき量を\(\Delta\)としよう. すると,「増やした\(1\)が十分に小さければ」以下のような式が成り立つ.

\[\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_x}-\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_y}\Delta=0\]

\(\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_x}\)は財\(x\)の消費量だけをほんの少し(\(1\)だけ)増やしたとき、どれだけ効用が増えるかを示し, \(-\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_y}\Delta\)は財\(y\)の消費量だけをほんの少し(\(\Delta\)だけ)減らしたとき、どれだけ効用が減るかを示している. 効用が変わらないためにはここの増減がちょうど打ち消しあって\(0\)にならなくてはいけない.

したがってその交換比率 \(\Delta\)は以下のように計算できる.

\[\Delta = \frac{\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_x}}{\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_y}}\]

これを「財\(x\)の財\(y\)に対する限界代替率」とよび、\(\textit{MRS}_{xy}\)と書く.これを図で確かめてみよう.\(w\)から\(w'\)の変化を考えてみる.もし,\(w\)から\(w'\)に変えることで,財\(x\)が1減り,財\(y\)\(\Delta\)増えたのだとすれば,以下の図のようになる.

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この\(w\)\(w'\)を通る線分の傾きは\(\Delta\)である.\(w'\)がものすごく\(w\)に近くなれば,この\(w\)\(w'\)を通る線分は無差別曲線の接線になる.したがって,この\(\Delta\)が無差別曲線の傾きとなるのである.

ただし注意点として、限界代替率は消費量によって変わるため, どこの点で測ったかを意識する必要があるということである.また、単に限界代替率と呼ぶと財\(x\)で測ったものなのか財\(y\)で測ったものなのかがわからなくなるので「財\(x\)の財\(y\)に対する限界代替率」ときちんと書くことが必要である.

例として次の効用関数の財\(x\)の財\(y\)に対する限界代替率を計算してみよう.\(u(q_x,q_y)= (q_x)^{1/3} \times (q_y)^{2/3}\)であるとする. まず、\(\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_x}\)および\(\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_y}\)を求めよう.それぞれ以下のように計算できる.

\[\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_x}= \frac{1}{3}(q_{x})^{-2/3}(q_{y})^{2/3}, \quad \frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_y}=\frac{2}{3}(q_{x})^{1/3}(q_{y})^{-1/3}\]

\(x\)\(y\)に対する限界代替率, \(MRS_{xy}\)とは\(\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_x}\)\(\frac{\partial u(q_x,q_y)}{\partial q_y}\)で割ったものであるので

\[MRS_{xy}=\frac{1}{2} \frac{(q_{x})^{-2/3}(q_{y})^{2/3}}{(q_{x})^{1/3}(q_{y})^{-1/3}}=\frac{1}{2} \frac{q_{y}}{q_{x}}\]

と計算できる.

無差別曲線の湾曲度(曲がり具合)にも意味がある.次の例を見てみよう.

  1. ほぼ垂直な無差別曲線、湾曲が少ない(代替性が高い).

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    • この無差別曲線を見てみるとほとんど真っ直ぐな直線である.(水平な無差別曲線でも意味合いは同じである.)これは限界代替率がどこで測ってもほぼ一定の無差別曲線で、「財\(x\)は財\(y\)いくら分の価値がある」といったことがほぼ決まっているような財の組み合わせである.例えば米1俵と米1斗の組み合わせなどである.米4斗\(=\)米1俵であるので、米1俵減らしたときに同じ効用を保つには米4斗増やさなければならない2.それは一俵袋と一斗缶をどの組み合わせでどれだけ買おうと同じことである. 極端な例だと下図のように真っ直ぐな線となる.

    • こういう場合、財同士に代替性があるといえる.片方の財がなければもう片方の財を用意すれば十分事足りるからである.

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  2. かなり湾曲度が高い、代替性が低い (補完性が高い).

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    • 先程の例とは逆に湾曲度が高い場合では限界代替率はどこで測るかでかなり異なる.例えば財\(x\)の消費量が多いような消費プランでは限界代替率である無差別曲線の傾きは大きい.つまり僅かな財\(y\)の増加のためであってもかなりの量の財\(x\)を犠牲にしてよい.逆に財\(y\)の消費量が多い消費プランではその真逆が起きる.

    • 例えば財\(x\)をケーキ、財\(y\)を紅茶としよう.紅茶一杯をもらう代わりにケーキをいくらあげれるかということを考えてみよう.手元にケーキがワンホールあり,紅茶がワンスプーン分しかないのなら、ひと切れふた切れあげる代わりに紅茶をもらっても良いかもしれない.しかし、ケーキが手元にひと切れしかなく,その代わりに紅茶が1リットルあるときには、紅茶を一杯もらったところでケーキはひと切れの半分もあげたくないはずだ.

    • このような財の間には補完性があるといえる.つまり片方の財だけ一方的に消費するよりもその中間を消費するほうがずっと良いのでそれらの財はペアで消費することが多い.

    • 下図のように極端な例では財\(x\)\(y\)を同じ量だけ消費しないと、片方の財がたくさんあっても効用は全く増加しない.例えば右の靴と左の靴のようなものである.

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  3. 飽和点がある.

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    • この無差別曲線は他と違って、財の消費量を増やせば増やすほどよいというわけではない.中心の点Aの消費プランで消費するのが最も良いのである.例としては複数種類の薬などである.これは最適な服用量が決まっていて、それ以上消費しても意味がないしそれ以下でも意味がない.最適な点から遠ざかれば遠ざかるほど薬の効き目は小さい(または害悪になる).


1

プラスマイナスが変わるなら別だが…

2

大きい袋だと管理に困るので小さい単位のほうがいいという細かい事情はあるかもしれないが,今回はそのような事情は無視できるとする.