単一財の消費者理論#

需要曲線の導出#

前節では具体例を使って市場の役割を見てきた.本節以降ではより一般的な議論を行う.そのためにまずは需要曲線というものをもう一度きちんと定義したい.これをするために買い手(消費者ともいう)の行動から考えてみるべきである.需要曲線とは消費者の買いたい量であるので、その「買いたい」という気持ちがどこからきているのかということを真面目に取り扱わなくてはならない.その動機を解明してこそのミクロ経済学である.

さて、具体的に次のような消費者を考えてみよう.消費者は財を\(q\)だけ消費すると金銭に換算して\(v(q)\)だけの幸福感を覚えるとしてみよう1.一方、市場では財を\(q\)だけ購入することになるので、価格が\(p\)であったとすれば彼の幸福感の合計(記号を使って\(u(q)\)と書く)は金銭で測ると

\[u(q)=v(q)-p\times q\]

だけということになるだろう.このときの値\(u(q)\)効用と呼ぶ2

消費者はこの効用の値を最大にするよう財の購入量、つまり\(q\)を決定すると仮定する.さて、効用を最大化するにはどうすれば良いだろうか.

一番単純な、そしてほぼ万能な方法は「微分をすること」である.この関数\(u\)を購入量\(q\)で微分したとき、その値が\(0\)になることが「\(u\)を最大にする\(q\)を求めるため」の第一条件である. 早速微分してみよう.すると

\[u'(q)=v'(q)-p\]

この値が\(0\)になれば良いので\(u\)を最大にする\(q\)ならば\(v'(q)-p=0\iff v'(q)=p\)が満たされる. このときの\(q\)の値を\(q^{*}\)だとしてみよう.つまり\(v'(q^{*})=p\)が最大化条件だ. 直感的には次のとおりである.\(v'(q)-p\)というものは\(q\)を少し増やしたとき、\(v'(p)\)だけ財消費から得られる効用の増分から\(p\)だけの支払いの増加分を引いたものである.これが\(0\)より大きいのであればもっと購入すれば良いだろうし、\(0\)より小さいのであればもっと購入量を減らすべきである.最適な状態ではこの二つの効果が打ち消し合っている.

さてこれはどういう条件であろうか.これをみるために図に書いてみよう.Fig. 4にあるように\(v'(q)\)は右下がりの曲線だとする. すると\(q^{*}\)という点は\(v'(q^{*})=p\)となっているところ、つまり図中の黒点で求めることができる.

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Fig. 4 効用最大化条件#

こうしてみると各\(p\)に対する最適な購入量\(q^{*}\)《買いたい量》はFig. 4の曲線\(v'(q)\)に沿うようにして求められる.そう、この曲線\(v'(p)\)がこの場合の需要曲線になるのである.\(v'(p)\)市場における交換で見た需要曲線と関連が深い.市場における交換での需要曲線はいわば追加的な一単位に対する支払意思額といっても良い.買い手全員を一人の消費者と見なせばこの消費者は最初の一単位に5000万の価値を見出し、次の一単位に3500万円の価値を見出している.つまり追加的な一単位に出してもいい金額を指しているのである. \(v'(q)\)も似たような概念である.\(v(q)\)はいわば財\(q\)だけ消費することに\(v(q)\)円だけの価値を感じているということである.\(v'(q)\)というのは\(q\)が増えたとき、金銭価値\(v(q)\)が追加的にどれだけ増えるかを示す指標である.

さて、需要曲線を導出した後はこれを使って実際、価格が\(p\)のときどれだけ需要量があるのかを知りたいとなるだろう.これ以降は具体的に\(v(q)=-q^{2}+2 q\)として計算する.そうでない場合も同じようにして計算することができる.

\[v'(q^{*})=-2q+2=p\]

となる.これを整理すると

\[-2q^{*}+2=p\iff q^{*}=1-\frac{1}{2}p\]

となる.これをみると\(q^{*}\)\(p\)の関数(一次関数)としてかけることがわかる.よってそれをわかりやすくするため\(q^{*}\)\(D(p)\)で書く.(Demand の D)である.つまり\(D(p)=1-\frac{1}{2}p\)である.こういった関数を需要関数という.

消費者が複数いる場合、市場の需要関数は全ての消費者の需要関数を足し合わせる.このようなものは総需要関数と呼ばれる.

ひとつ注意するべきは,需要曲線のグラフを描くとき,価格を縦に,数量を横にとることである.これは効用最大化条件の図Fig. 4を見るとわかる. こう見ると需要関数は価格の関数ではなく数量の関数に見えるかもしれない.実際価格と需要量の関係が一対一であれば3需要関数を反転させることができる.

もし需要関数が\(D(p)=a \times p+b\)と書けるとしよう.このとき,\( q=D(p)\), \( p=P(q)\)とおけば需要関数を\(q=a \times P(q)+b\)と書き直すことができます.この\(P(q)\)の部分が価格となる.これを数量の関数とみる.これを解けば\(P(q)=\frac{1}{a}(q-b)\)と書き換えることができます.この\( P(q)\)逆需要関数と呼ばれる.経済学では需要関数を図示するとき,逆需要関数の方を書くのである.

需要の価格弾力性#

需要関数に関係して,需要の価格弾力性という概念を紹介する.需要の価格弾力性とは価格が\(1\%\)変化したときに需要は何\(\%\)変化するかという指標で,需要関数を\(D(p)\),変化前の価格を\(p^{\text{前}}\),変化後の価格を\(p^{\text{後}}\)とすれば

\[\begin{split}\text{需要の価格弾力性}&=-\frac{\frac{D(p^{\text{後}})-D(p^{\text{前}})}{D(p^{\text{前}})}}{\frac{p^{\text{後}}-p^{\text{前}}}{p^{\text{前}}}}\\ & =-\frac{D(p^{\text{後}})-D(p^{\text{前}})}{p^{\text{後}}-p^{\text{前}}}\times \frac{p^{\text{前}}}{D(p^{\text{前}})}\end{split}\]

と定義される.つまりは需要の変化率\( \frac{D(p^{\text{後}})-D(p^{\text{前}})}{D(p^{\text{前}})}\)を価格の変化率\( \frac{p^{\text{後}}-p^{\text{前}}}{p^{\text{前}}}\)で割ったものになる.

変化率とは,変化した分の差を変化する前の量で割ったものである.なぜこんなことをするのかと言えば,変化した分の差だけ見てもイマイチどれだけその変化のインパクトが大きいかがわからないからである.例えば価格\(1000\)万円のものが\( 1001\)万円になったとして,たいした変化ではないが,\(10\)円のものが\(1\)\(10\)円になったら大ニュースです.しかしこの場合どちらも変化した大きさは1万円である.一方で変化率で見ると,前者の変化率は\(\frac{\text{1万}}{\text{1000万}}=0.001\)であるが,後者の変化率は\( \frac{\text{1万}}{10}=1000\)になる.変化率がインパクトの大きさの違いを表していることがわかるだろう.通常は価格が低下すると需要が増えるので,変化率はマイナスになる.したがってマイナスをつけて絶対値で表現することがよくある.(これは本質的ではありませんが).

例として,需要関数が一次関数,\(D(p)=b-a \times p\)だとします.すると価格弾力性は次のように計算できる.

\[\begin{split}\text{需要の価格弾力性}&= -\frac{(b-a \times p^{\text{後}})-(b-a \times p^{\text{前}})}{p^{\text{後}}-p^{\text{前}}}\frac{p^{\text{前}}}{(b-a \times p^{\text{前}})}\\ &= \frac{a \times p^{\text{前}} }{ b-a \times p^{\text{前}}}\end{split}\]

少し観察すればわかるように例えば需要関数の傾き\(a\)が大きければ大きいほど大きくなる.

逆需要関数の傾きとしては逆に傾きが小さい財が弾力性の高い財である.通常目にする需要曲線は逆需要関数なので,弾力性の大きい財は水平に近い傾きをしている.また価格が大きい財もより弾力的になる.

価格弾力性が\(1\)を超えるものを弾力的な財と呼び,そうでない財を非弾力的な財と呼ぶ.弾力的な財であれば少しの価格変化で需要が大きく動く4.贅沢品(奢侈品)などがその例である5.代替物がある場合もその例である.例えば,コカコーラだけが値上げすれば,(こだわりのある人を除けば)他社のコーラを買うようになるだろうからコカコーラの需要量は大きく下がる. 非弾力的な財の例としては必需品や中毒性のある財などがある.例えば,水道代が安くなっても「水流し放題だぜ」とはならないが,高くなっても水を一切使わないようにしようとはなかなかいかない.


1

これは\(v\times q\)という意味ではない.「\(v\)\(q\)の関数である」ということだ.例えば\(v(q)=\sqrt{q}\)などが一般的である.

2

効用が,\(=v(q)-p\times q\)という想定はかなり現実を無視している.まずこの効用には所得が出てこない.所得に関わらず,お金を使うことのダメージが一定なのである.普通は1億円持っている人が1万円を失うのと5万円で生活している人が1万円失うのではインパクトが違う.この辺りのことを考慮に入れた分析は複数財の消費者の理論の章で詳しく学ぶ.一方で所得がそんなに重要でないものを分析する場合はそこそこ計算しやすくて便利であるので,よく使われる.このように「モデル」というものは絶対の真理ではなく,目的によって単純なものや複雑なものを使い分ける道具である.

3

一対一とは価格が違えばそのときの需要量は異なり,また量が違えば,需要量がその量になる価格も違うということである.

4

グラフを見て弾力的かどうかを判断するにはこの点に注意すると分かりやすい.

5

贅沢品に中毒になる人もいるだろうがその場合は非弾力的と思って良い.